前々回記事では E-M1 Mark II でナイトゲームのサッカー撮影を3試合ほど撮ってきての雑感を述べました。

ダメだと言いつつ E-M1 Mark II でナイトゲームのサッカー撮影における妥協点を探りつつ思う徒然

マイクロフォーサーズのカメラには厳しい条件ではありますが、オリンパス自身、公式サイトの開発者インタビュー「連写&AF」ページの冒頭で

サッカーのゴールシーンなど決定的な瞬間を撮るのに最適な機能ですので、ぜひ積極的に使っていただければと思います。

連写&AF | E-M1 Mark II | オリンパス

と開発者が「オラオラ、使ってみろよ」と言ってるんですから、そりゃ撮りますわね(^^)

(私が普段からサッカー撮るのは被写体への愛着だけでなく、普段からそれなりに動く被写体を撮ってないと、いざ航空祭、いざサーキット、という、たまのイベント時への慣れでもあります。歳を取るとともに動体視力も反射神経も衰えが顕著になりますからねぇ ^^;)

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実際この1ヶ月、民間機やサッカーだけでなく、モータースポーツ(SUPER GT)、動物園、競馬と撮ってきて、あとは戦闘機の機動飛行に(EVF も AF も)どこまでついて行けるかどうか?という課題はありますが、

条件は多少選ぶけど、動体相手でもそれなりに使える


という印象ではあります。今まで使ってきたミラーレス機とは別物です。

特に

今までのミラーレス機と違って、ファインダーで追える


というのは、やはり一番大きいです。ミラーレス機での動体撮影というとすぐに AF の話になりがちですが、ミラーレス機における動体撮影で一番問題になっていたのは被写体がきっちり追えないことでした。AF の問題は、その次。

動体でも被写体によっては AF に頼れなくても置きピンや MF で対応できる場合がありますが、その置きピンも MF もファインダーでタイムラグなく被写体を捉えられてこそ、です。「撮れた」ではなく「撮った」であるにはファインダーの解決は必須であり、

E-M1 Mark II は動体に対して“撮れる”、“狙える”ミラーレス機


です。

E-M1 Mark II の EVF もカタログや宣伝に称されてる性能が常に出るわけではないし、半押ししてると見え味が変わるとか、手ぶれ補正によるファインダーの跳ねとか、ぶっちゃけ満足には遠いですが(諸々のことは後日)、未来を感じられる EVF ではあります。

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後付けグリップなんていう💩アクセサリーが用意されない、最初からシッカリとしたグリップなのも良いですし、レリーズ周りのタイムラグの少なさも、同価格帯のデジタル一眼レフ中級機と比べて優秀な方ではないでしょうか。少なくとも EOS 6D / 7D Mark II よりは少ないと実感できます。

ただ、個人的にはレリーズの半押しまでに比べて、半押しから全押しが深すぎて、動体以外に静止体相手でも微妙に感じる点です。せっかくレリーズタイムラグが小さいのに…とは思います。が、これには個人差がありますし、レリーズ調整ができる EOS-1D 系やリコー GR を使っていた時は、デフォルトより軽く、浅くチューニングしていた私であることを差し引いてもらって良いかと。

(各社フラッグシップ機はレリーズのチューニングをしてくれますが、オリンパスはないようで残念。値段的に言えば他社中級機ですから、文句は言えませんけどね)

C-AF も(食いつきの悪さというか初動の遅さを除けば)AF 速度精度といった性能自体は悪くない印象で、時々「なんでこんな何でもないところで外すんや?」というポカがあるのは気になりますが、満足とは言えないまでも動体相手にそこそこ使えると感じています。

そうでなければ、大いなる反省とともにすぐ手放していたはずです。撮るものは次々とやってきて待ってくれませんから、E-M1 Mark II を買う時にその覚悟は持っていました(もちろん予想通り、いや期待以上であれば良いと思って買ったけど)。しかし、今のところ、その予定はありません :-)

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ただ、ここまでボディ価格もあがり、メーカー自ら一眼レフに負けないようなことを言ってるのですから、当然評価は同価格帯の一眼レフ機と真っ向勝負で比べられての話になります。そうでないと失礼でしょうし、さすがに「ミラーレス機は発展途上だから〜」と言い訳してる時代でもありません。

その上で、例えば

動体相手の撮影をしている友人知人、これからしたいと言ってきた友人がいて、ニコンやキヤノンの一眼レフ中級機より E-M1 Mark II を勧められるか?


という E-M1 Mark II やオリンパスが求めるであろう命題について、私自身が思うところを率直に言えば、現時点ではです。


結果よりシステムの小型軽量さを最優先にする理由以外に、動体撮影を志向している人がニコンやキヤノンの一眼レフ中級機でなく E-M1 Mark II を選ぶ必然性は、今はまだ、ないでしょう。システムの発展性も違います。

そもそも「結果より小型軽量さだけを志向する人で E-M1 Mark II +レンズの価格を出す人がどれだけいるのか?」という疑問もあります。みんな本気に慣ればなるほど、ハマればハマるほど、重さ大きさは厭わなくなるものですしね。(一定の年齢になるまでは)

個人的には E-M1 Mark II と M.ZUIKO PRO レンズは、自分が買った目的とは逆に

静止体相手にお手軽で高性能なシステムを組むにはピッタリ


だと実感してますし、もう一眼レフにこだわる必然性はないと思うくらいですけど、動体相手だと、まだ同価格帯の一眼レフ機およびシステムと比べて「遜色ない」「変わらない」と言い切るのは難しいと思います。

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私みたく「そこまで言うんだったら、買ってみたい、使ってみたい」と、オリンパスの甘言に乗せられてガジェットヲタ的な興味で使うならともかく、そうでなければ、

E-M1 Mark II をニコン/キヤノン中級機と並べて勧められるようになるには、スペック性能だけでなく、機能・操作性を含めた総合的な良さ、同程度の価格と同程度の努力で得られる結果が同等以上にならなきゃダメなんじゃね?


と思いますし、この一ヶ月使ってきて、

E-M1 Mark II に足りてないと感じるのは
AF 性能より動体撮影に対する機能・操作性


だったりします。

せっかく、そこそこ動体が追える EVF があって AF も性能そのものはさほど悪くないのに、AF の機能面が前時代的で、操作性も動体撮影するために配慮されてなく、そこでスポイルされていて勿体ないなあ〜


ということ。動体相手に撮影して、どれだけの結果を回収できるかは AF 速度精度だけの問題ではないですからね。

E-M1 Mark II の C-AF 精度・速度については満足とは言えないまでも、大きくダメ出しするほどではないと感じていますが、動体を撮るための AF 機能、動体を撮るための操作性の点でストレスを感じるところが多々あります。

それらについて、これから何回かに分けて触れていきたいと思います。

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(1)多点 AF の測距開始点が指定できない


AF での写真撮影の基本は1点 AF だと思いますが、動体相手の AF も基本は1点 AF であり、多点 AF も多くの場合は「指定した 1点 で被写体を捕捉する」ものです。

動体撮影の多点 AF は 1点+補助


であって、測距開始点以外の他点は被写体が激しく動いたり、不規則に動いて1点では捉えきれない、撮影者の未熟さで捉えきれない時の補助であったり、被写体が移動しても構図を変えたくない時の乗り移り点です。

被写体全体が十分に被写界深度内に収まり、かつ背景が空だったり被写体と距離差が十分あって邪魔物がないような撮影なら、「何もかもカメラにお任せ AF」で良いかもしれませんが、
  • 飛んでる鳥だって、動いてる動物だってピントは目に合わせたいし
  • 車だって箱車ならフロント(またはサイド、時にはドライバー)、フォーミュラカーならドライバーの頭部(ヘルメット)に合わせたいし
  • スポーツも人物写真ですから当然顔、アップなら眼に合わせたい

わけです。(もちろん、意図が違えばピント位置も違うでしょう)

多点 AF だからと言って、ピントを当てたい部分をカメラにお任せ(だいたいは一番近い被写体、被写体の一番近い部分)というわけではありません。ピントを当てたいところは 1点 で捉えて、そこで捉えた被写体の動きに合わせて多点で補助してやる、(形状や色に基づいて)乗り移りしていく、というのが、動体撮影における普通の多点 AF です。

測距開始点を常に自分で決めた測距点から始めるしかなくても困るシーンはないが(自分がしっかり被写体を捉えれば済むだけの話)、測距開始点が常にカメラ任せで自分の思うようにできないのは大いに困る


わけです。測距開始点がカメラ任せの多点 AF は使いようがない、というか、変なところへ合焦しないと確信が持てるような場面だけで使いどころが限られます。

特に

E-M1 Mark II のフォーカスフレームはかなりデカいので
1つズレただけでも意図したところと異なってしまう


ので、測距開始点が指定できず “良きに計らえ” しかない多点 AF を使うのは怖すぎます。ですから結局、「このカメラ、動体相手の撮影は1点AF 以外は使えんやん…」となってしまうのです。

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他社で言えば、ニコンご自慢の 3D-Tracking AF はフォーカスエリア全点を使いますが、最初の1点、測距開始点は撮影者の意図したフォーカスポイントであり、それは 25点、72点、153点のダイナミック AFでも同じです。(他にカメラ任せの全点 AF やエリア AF があります)

キヤノンの全点 AF も測距開始点はカメラ任せだけでなく、指定した測距点で捉えるように決められます。スポーツその他の動体撮影で一番多く使われるであろう 1点+上下左右、1点+周囲の AF は明示されているとおり、中央の1点が主たる測距点であり、周囲はあくまで被写体がブレた時の補助です。(測距開始点お任せのエリア AF、ラージエリア AF もあります)

ペンタックスも測距開始点お任せの全点 AF(オート)やゾーン AF(ゾーンエリア)以外に、3種類のセレクトエリア拡大 AF があり、それらは1点 +被写体が外れた時に補助で周囲点を使う形の AF です。(セレクトエリア拡大 L は全点使うので、任意測距開始点での全点 AF と同じ)

富士フイルムは少々異なっていて、シングル、ゾーン、ワイド(全点)AF しかないのですが、別途「ゾーンエリア特性」という項目があり、ゾーンの中で常に中央点を優先してピントを合わせる、中央で合わせるけど被写体の動きに合わせてエリアが追従する、常に手前にいる被写体を選択する(カメラ任せのパターン)が選べるので、良きに計らえも自分が測距開始点を選択することも可能です。

(富士フイルムは X-T1 リリース当初は今の E-M1 Mark II 以下の原始的な AF でしたけど、怒涛のファームウェア更新で素晴らしく進化し、X-T2 に至っては AF の機能面、カスタマイズ面ではニコン、キヤノンに遜色ないレベルになりました。ホント凄いです)

ソニーもちょっと変わってるというか、パナソニックと似たミラーレス機ならではな AF モード種類が並んでいて、デジタル一眼レフとは違うのですが、α6500 では指定したエリアから全点使って追尾するロックオンAF や、指定した測距点を優先するものの周囲の測距点を補助として使う拡張フレキシブルスポット AF があります。(パナソニックは空間なんちゃら AF になってからよく判らないので割愛)

いずれにせよ、中上級機以上では多点 AF で測距開始点が指定でき、周囲点は被写体の動きに合わせた補助というモードがあるのは当たり前といっても良いと思いますし、動体撮影を謳うなら尚更です。

E-M1 Mark II はオリンパスのフラッグシップ機にも関わらず、これができないのは動体撮影する人が使う上でマイナス点の一つである、と私は強く感じます。

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もちろん、シングル AF だけでは E-M1 Mark II は動体に使えないかというと、決してそんなことはありません。私自身、使い始めてこれが判ってから、一部のシーン以外はずっと1点 AF で撮っていますが、それでは 10年くらい前の一眼レフと変わりません。(まさか、こんな基本的なことができないとは思わなくて購入前に確認もしなかった)

けれど、キヤノン機を長年使っていて、1点だけの AF だった時代より 1点+周囲点で補助してもらえる方がヒット率というか残せる結果の割合が違いましたし(周囲点を上手く使う C-AF、周囲の補助も考えた動体予測は精度が上がるでしょう)、ストレスが少ないのは大きな違いです。

それでなくても光学ファインダーじゃなく EVF で疲れるのに、このプリミティブな AF しかなくては、ライバルであるニコン/キヤノンの中級機と比して大きなマイナス、動体撮影では E-M1 Mark II を選ぶ理由が減ると思います。

いずれにせよ、

たとえ動く被写体相手の多点 AF でも
どこにピントを合わせるかは撮影者の意思がある


という点をオリンパスさんが忘れていないならば、将来のファームウェアにて必ず改善してもらいたいと思う点です。

まぁ判っていて(優先順位上とかの理由で)無視したのか、判っててできなかったのか(他社のほとんどができていることをオリンパスにできないとは思えないけど)、いずれかなのかもしれませんが、何故この機能がないのか本当にビックリです。

開発者インタビューで

オートフォーカスについては、飛躍的によくなっていて「プロが仕事に使えるレベル」や「サーキットやサッカーの撮影でも十分に使える」という声をいただいています。


と言ってますけど、確かに C-AF 速度・精度はミニマムレベルをクリアしているでしょうが、他社ならずっと前から当たり前で普通に使われてる点に、お抱えカメラマンから指摘がなかったのでしょうか?ホント不思議です。

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(2)5点・9点 AF では表示されない「動体追従クラスター表示」


E-M1 Mark II の製品特長のページにある「動体追従クラスター表示」。被写体の動きに合わせてフォーカスエリアが追従して、ファインダー内のフォーカスフレーム表示もそれに合わせて動いていく、というヤツです。

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ここ数年の他社中上級機、デジタル一眼レフに限らずミラーレス機でも珍しくもなんともない機能だと思いますが、オリンパスでは初採用なのかな。

しかし、残念ながら E-M1 Mark II ではフォーカスエリア乗り移りに合わせた EVF 内のフォーカスフレーム表示追従が全点 AF(オールターゲット選択時)のみで、何故か他の多点 AF、5点、9点 AF ではフォーカスフレームが移動しません。(以前、どこかのミラーレス機でも同じ体験した気がするけど覚えてない)

EVF 内のこの挙動を見て、最初は「測距開始点も指定できないだけでなく、5点・9点ではフォーカスエリアの乗り移りもしないかよっ!」と思ったのですが、どうやたら5点、9点内でフォーカスエリアの乗り移りはしているっぽいです。(カメラが勝手に決めた測距開始点から少しズラしても5点、9点内なら捉えたまま)

となると、

なんで全点 AF でできることが 5点、9点 AF でできないの?


と思うわけです。(もし、5点・9点 AF での乗り移りが私の勘違いなら、乗り移り自体も何故?ということになります)

ぶっちゃけ、

ひと昔前のミラーレス機じゃないんだから
フォーカスフレームは常に合焦してるエリアを表示してくれや


と思うわけです。(C-AF + TR なら追従用のターゲットが動く、なんてのは別次元の話ですので念のため)

これが E-M10 Mark II みたいな廉価機なら何も文句は言いませんよ。ってか、言ってない。だけど、曲がりなりにもオリンパスのフラッグシップ機で、動体撮影能力を標榜するカメラなんだから、

動体をきっちり捉えるだけでなく
撮影者に情報をフィードバックする重要性


をもっと考えてもらいたいと思います。

(そもそも、マニュアルに AF の挙動その他について、ちゃんと説明がないのがおかしい話。ここまで舐めた極薄マニュアルは他社ではないと思う。ソニーだって取扱説明書は薄いけど、別途厚めの PDF マニュアルが用意されていますし、ニコン/キヤノンはそれなりに詳しい内容で制約事項はちゃんと記載されていることが多いです)

てなわけで、前置きが長くなりすぎたので、この後は次回へ続く……

一ヶ月の E-M1 Mark II × 動体撮影で感じたこと、改善されるべき点【中編】より迅速な操作性を求めて