爽やかな秋晴れ続きで絶好の行楽日和の三連休。わたくしめは九州へ行っておりましたが、遊びに行ったのではなかったので、カメラは荷物にならないよう最小限。とはいえ、GR だけでは画角が…という感じでしたので、最近すっかり相棒となった F900EXR も持って行っておりました。

画質重視は(画角が限られるけど)GR、画角重視は(画質は激落ちだけど)F900EXR。まぁ、F900EXR はもう少しレンズがまともなら…と思いますが、手のひらサイズで 20倍ズーム、500mm 超望遠カバーですから目をつむらざるを得ません。

それでもミラーレス機を持っていくとなると荷物が嵩張って(遊びに行くのでもないのに)何しに行ってるのか判らなくなりますから、こういう時は2台とはいえ、コンパクトデジカメのサイズ感に限ります。

F900EXR_Sample50KIXPeach_398mm
(関西空港で搭乗待ちの合間に一枚)


画質も使い勝手も一眼レフはもとよりミラーレス機と比べても数段落ちますが、前編記事でも書いたように

手軽にスマートフォンでは撮れない世界が撮れる


わけで、スマートフォンにコンパクトデジカメを付け加える、敢えてコンパクトデジカメを購入する動機の一つとなり得るモノだと思っています(無論、Wi-Fi でスマートフォンへ写真転送もできる)。

安価に超望遠、スマートフォンでは決して撮ることのできない世界へ 〜改めて富士フイルム F900EXR【1】

img src="http://farm6.staticflickr.com/5550/10238342006_2f8d99f418.jpg" width="500" height="375" alt="F900EXR_Sample50KIXPeach_398mm">
(スマートフォンでは撮れない一枚をサッとスマートフォンへ転送して SNS 投稿も簡単)


同じような“手のひら 500mm クラス超望遠”なデジカメは本機種以外にも、

といったものがあり、WX300 ならコンパクトさ、SX280HS なら動画機能、TZ40 はより広角志向など、それぞれに良さがあります。

その中で富士フイルム F900EXR を選んだのには当然理由があります。

いずれの機種も 25〜500mm の 20倍超望遠ズーム機で(LUMIX TZ40 だけ 24〜480mm)、スマートフォンやパソコンとの Wi-Fi 写真転送機能もありますし、大きさも Cyber-Shot WX300 は一回り小さく軽いですが、他の3機種は同程度のサイズ。十分に一般的なコンパクトデジカメのサイズだけど若干厚め。

そういった中で、F900EXR を選んだのには幾つかの理由がありました。その理由の中でも一番ポイントになったのは

富士フイルムならではの色
中央部だけなら満足できる画質
意外と使える EXR モード/連写重ね撮り撮影


といった「F900EXR の出す絵は同種他社機より魅力的かも…」という点でした。



F900EXR の画質は意外と良い、と言いたいところですが、実際にはレンズに無理があって周辺画質はかなり厳しいことになっています。特に、うちの個体では中望遠域を中心に左右の像の流れが酷くて結構泣いているので、とてもじゃないですが「画質が良い」とは言えません。

言えませんが、

中央部に限れば画質もまずまず、色表現は富士らしく素晴らしい


のも事実です(色については個々人の好みの差はあるので異論は認める)。

手のひらサイズなのに 25〜500mm 域までカバーするという高倍率ズームレンズですから、元々無理があるのは承知で買っているので我慢するしかありませんし、レンズの問題は廉価コンパクトでは有りがちな話です。

ただ、周辺部は盛大に流れてくれて萎えまくりですが、画像中央部に関してはまずまず納得の画像です。特に 500mm の超望遠を手のひらサイズのカメラで撮っていると思えば、

「おー、技術の進化もここまで来たのかぁ」と思わせるに値する


と私は思っています。

例えば、以下の写真は GR での 35mm 相当の画角の写真ですが、反対側メインスタンドのアウェイサイド(斜め向かい)にある相手ベンチはごくごく小さくしか写っていません。

GR008019.JPG


これを F900EXR の超望遠でグググッと寄ると…

F900EXR_Sample47TochigiGreenStadium_500mm_EXR


500mm 相当でここまで寄れてしまいます!

そして等倍切り出ししても

F900EXR_SampleTrim47TochigiGreenStadium_500mm_EXR


今季途中、70を超えて栃木SC監督に就任した名将、松本育夫氏の顔もしっかりと写っております(この日は完敗でした…)。ぶっちゃけ、

画面中央部だけ&日中撮影とはいえ
てのひらサイズのカメラで 500mm 超望遠が写れば満足


かなぁ、と思っています。まぁ画面周辺部は最低画質ですけど、一眼レフ+500mm 域の望遠レンズを常用しているだけに、ホント隔世の感があります。

極小センサーの廉価コンパクトデジカメですから暗くなって ISO 感度が少しでも上がると、この画質も速攻崩壊していきますが、静止物相手の撮影なら後述する連写重ね撮りモードが意外と効果ありますので、少し暗めでも 500mm 超望遠がマトモな画質で使えたりします。



また、富士フイルム独特のフィルムシミュレーションモードは素晴らしい色合いだし、AWB もシーンの色を若干過剰すぎるくらいだしてくれますが、記憶色としては、写真としては好ましいとも感じられます。

F900EXR_Sample27_SeaOfJapan_25mm
(夏の浜辺。ベルビアモードでの色合いはドンピシャすぎる)

F900EXR_Sample51Afterglow_74mm
(標準のプロビアモードで AWB だが、お任せでも残照の色の感じがよく出ている)


富士フイルムのミラーレス機 X-E1 を使っていて、その色には惚れ込んでいるわけですが(色や画質以外は最低部類のミラーレス機だけど)、色作りについてはコンパクトデジカメでも共通したものを感じられます。

F900EXR ではプロビア(標準)、ベルビア(ヴィヴィッド)、アスティア(ソフト)、モノクロ、セピアの5種類のみで、ミラーレス機やハイエンド機のようなネガ系のフィルムシミュレーションがないのは残念ですが、フィルムシミュレーション・ブラケット撮影もあって、この点については満足できます。

F900EXR_Menu03
(通常のカラーモードと同じようで、富士の色は違うと思わせてくれるのも事実)

F900EXR_Menu07
(F900EXR のフィルム・ブラケットはプロビア、ベルビア、アスティアの固定)



さらに、昨今各社とも力を入れているインテリジェントオート(シーン認識を元に最適化したカメラお任せ撮影モード)の富士フイルム版である EXR モードは予想以上に良くできています。私自身、よく使っています。

シーン認識と撮影方法の選択結果が画面端に出てくるので、いつも撮影時に見ているわけですけれども、単に風景だとか人物だとか動体だとか、そんな単純なものだけではなく、ダイナミックレンジモードの変更や ISO 感度が上がるようならば連写重ね撮りモードにするといった処理も納得できる形でやっています。

F900EXR_Sample10_KyotoTowerEXRAuto_25mm
(広角 25mm 相当での EXR モード撮影。若干明るめだが雰囲気は出てる。F3.5 / ISO 400)

F900EXR_Sample11KyotoTowerEXRAuto_172mm
(172mm 相当。これでシャッター速度 1/15秒なので手ぶれギリギリ。
とはいえ、手ぶれ補正もよく効く。そして、やはり明るめ露出)

F900EXR_Sample12KyotoTowerEXRAuto_M500mm
(さらに寄って 500mm 相当。EXR モードは連写重ね撮りを選択。
500mm 相当 1/60秒で手ぶれなしで、コンパクトの夜撮望遠とは思えない高画質)

F900EXR_SampleTrim12KyotoTowerEXRAuto_M500mm
(上の写真の中央部を等倍切り出し。夕闇の手のひら 500mm でこれなら文句なし)


少しでも暗くなって ISO 感度が上がると一気に画質劣化する廉価コンパクトデジカメでは、連写重ね撮りモードはかなり有効です。ミラーレス機でも早くから積極的に取り入れていたソニーも処理が上手いですが、富士フイルムもなかなか感心です。

F900EXR の撮影画像サイズは通常 1,600万画素相当の 4,608×3,456 pixels ですが、連写重ね撮り撮影を行うと 3,264×2,448 pixels の 800万画素相当にサイズダウンします。

とはいえ、元々 1/2.3インチの極小センサーで 1,600万画素というのは無理がありますし、800万画素相当でも何ら不自由しませんので問題ありません。それに通常撮影画像をサイズダウンするより連写重ね撮り撮影の方がノイズが少なくなるので、断然使える画像になることが多いです。

以下は、プログラムAE での通常撮影したものを 3,264×2,448pixels に縮小した画像と EXRモードでの連写重ね撮り撮影の画像を並べてみました。

F900EXR_Sample38Program
(プログラム AE)

F900EXR_Sample39EXRauto
(EXR モード/連写重ね撮り)


133mm 相当での望遠で、EXR モードでの重ね撮り撮影画像は例によって少し明るめ露出、見た目の露出はプログラムAE での撮影の方が近いと思いますが、同じサイズに揃えてみても露出が明るめの割にはノイズ量がかなり少なくなっています。

等倍で切り出してみると

F900EXR_SampleTrim38Program
(プログラム AE)

F900EXR_SampleTrim39EXRauto
(EXR モード/連写重ね撮り)


と、こんな感じです。

EXR モードで連写重ね撮りになると(EXR モードでは自らの露出補正が効かないことも含めて)やや明るめ露出になるのですが、ノイズ量は減り、またシャッター速度も速く設定されます。手ぶれにさえ気をつければ、概ね良いこと尽くめです。

また、薄暗い夜の京都駅でのサンプルですが、広角 25mm で撮影したのが以下の写真。

F900EXR_Sample41_ISO1600_25mm_P


駅構内は暗めで、プログラムAE で通常撮影した上記写真は、広角端 F3.5 開放ながら感度は ISO 1600 となっており、以下のように画像はかなり荒れています。

F900EXR_SampleTrim41_ISO1600_25mm_P
(前写真の等倍切り出し)


如何にも廉価コンパクトデジカメで高感度撮影した写真という感じで、細部は悉く潰れています。等倍切り出し写真でも、2階のカフェスペースのこちら向きカウンターに客が3人座っているのが判る程度です。

これを 133mm 程度の望遠(5倍ズーム程度のコンパクトデジカメの望遠端)で撮影してみます。まずはプログラムAE で通常撮影。

F900EXR_Sample42_ISO1600_133mm_P


これも ISO 1600 での撮影ですので、縮小してみているならともかく等倍で表示してみると

F900EXR_SampleTrim42_ISO1600_133mm_P


こんな感じで細部は潰れまくりです。ところが同じような構図で、今度は連写重ね撮り撮影をしてみますと、

F900EXR_Sample43_ISO1600_133mm_EXR


EXR モードを使ったので例によって少し明るく露出が出ていますが、エッジがはっきりしてクッキリ感があり、コントラストも上がって見栄えのする画像になっています。

また、等倍切り出しをしてみても

F900EXR_SampleTrim43_ISO1600_133mm_EXR


通常撮影と比べると細かい部分がハッキリと描写されています。連写重ね撮り撮影では撮影出力サイズが小さいので、等倍切り出しだと広い範囲が写っていますが、通常撮影よりも細かいところまで写っているような印象さえ受けます。

さらにテレ端近い 475mm までズームアップしてみると…

F900EXR_Sample44_ISO1600_475mm_P
(プログラムAE で通常撮影)

F900EXR_Sample45_ISO1600_475mm_EXR
(連写重ね撮り撮影)


どちらも人の顔まで判別できるレベルになってしまうわけですが、ここまで寄った時にも連写重ね撮り撮影で撮るとノイズがかなり減り、細部の描写もなかなかキチンとできています。

F900EXR_SampleTrim44_ISO1600_475mm_P
(プログラムAE で通常撮影した画像を等倍切り出し)

F900EXR_SampleTrim44_ISO1600_475mm_P2
(通常撮影したものを800万画素相当に縮小してから切り出し)

F900EXR_SampleTrim45_ISO1600_475mm_EXR
(連写重ね撮り撮影した画像を等倍切り出し)


上記では切り出し範囲が同程度になるように通常撮影したものを縮小してから切り出した画像を載せて比較しているのですが、それでも連写重ね撮り撮影した画像の方が明らかに鮮明です。

また、最後の 500mm の例では通常撮影が ISO 1600 なのに対して、連写重ね撮り撮影の方は ISO 3200 に上がっています。それでもこれくらい鮮明な撮影ができます。それゆえ、

連写重ね撮り撮影ができれば、暗めの場所の撮影も結構いける


感じですし、何より開放F値の関係上、望遠〜超望遠域ではどうしても ISO 感度が上がってしまいますから、この機能が使えるのはかなり大きいと思います。

もっとも動くもの相手には連写重ね撮り撮影はできないですし、使いどころも限られますが、連写重ね撮り撮影は EXR モードでの自動判定以外に、Adv. モードで自分が指定して撮影することもできますので、このモードを利用することで随分と高感度画質の改善になると思います。

F900EXR_Sample40Tele_ISO1000_EXR_Msize
(連写重ね撮り撮影を使えば Nikon 1 より高感度時の画質が良いことも…)


というわけで、F900EXR を選んだ理由の第一として、

  • 富士フイルムならではの色

  • 中央部だけだが満足できる画質

  • 意外と使える EXR モード/連写重ね撮り撮影


といったものがありました。

要は

静体相手の静止画写真なら画質面で結構いいんじゃね?


と思ったのが選択の理由でした。まぁ、周辺画質の悪さだけは何とかしてもらいたいと思いつつ、目をつぶるしかないのですが、中央部だけを見れば、手のひら超望遠コンパクトの割にはなかなかやるね、と思うことが多いのも事実です。

それは購入から3ヶ月以上経った今も同じで、

時に F900EXR の画質に「なかなかやるね」と思い、
時に F900EXR の画質にガックリしたり、

その両方がありますが、使い方を工夫すれば、このサイズ&超望遠と思えば、まずまず満足できるかなぁ、と思っています。



もちろん、F900EXR 選択の理由はこれだけではありません。機能/操作性の面でも幾らかの魅力はありました。次回はそのあたりについて。

安価に超望遠、スマートフォンでは決して撮ることのできない世界へ 〜改めて富士フイルム F900EXR【1】