前回は EOS M を3日間ほど使ってみての雑感ファーストインプレを書いてみましたが、特に気に入ったのは(JPEGなら)サクサク撮れる小気味良さと、実際に使う前、店頭で触ったくらいの印象よりはずっと良い操作性でした。

キヤノンから EOS M を借りてまだ数日ですが、週末に九州へ所用で赴き、そのまま日曜日にはV・ファーレン長崎のJリーグ昇格ホーム初戦、というよりはガンバ大阪の長崎アウェイ戦を諫早まで応援しに行ったのですが、道中のスナップを気軽に撮るには最適でした。

EOS M test shot (43)


もちろん、同じようなことはマイクロフォーサーズ両社や NEX などでも同じようにできるわけですが、「後出しなのに良いところが特にないじゃないか」的な EOS M で決して印象が良くなったのが、実際に使ってみると「意外と使えるじゃないの」と。

画質も決して秀でているとは言いませんが、APS-C ならではの被写界深度や良い塩梅の色チューニング、シーン認識などはさすがだなぁ、と好ましく感じました。

レンズラインナップは無きに等しいですし、デザイン的にも見るところはなく、機能性能で EOS M ならでは!というものがない中で、無理に推してる感が無きにしも非ずですが、使ってみて印象が変わったのは事実です。

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パンケーキタイプの単焦点レンズを付けるとコンパクトデジカメっぽいサイズ感、見た目になるものの、標準ズームを付けるとレンズがニョッキとボディより存在感を増す、というのはコンパクトタイプのミラーレス機ボディの最初である E-P1 からの伝統とも言うべき仕様。

パナソニックに始まりソニー NEX もパンケーキタイプの標準ズームを出しましたし、ボディデザインも含めて平々凡々で、せめてもうちょっと何か特徴があって良かったのでは…とは、実際に使っていても思います。最後発でここまで特徴のない安全牌とはねぇ…という思いも変わりません。

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ただ、最初に書いたように、少ないダイアル、ボタンしかない割には意外と良好な操作性を持っていると感じます。一眼レフの操作感ではなく、あくまでコンパクトデジカメ的な操作性の良さではありますが、他の多くのミラーレス機を使ってきた、使っている中で、他社も見習って欲しいよなぁ、という部分はあります。

個人的に EOS M を推すとしたら、PowerShot / IXY 系と隔絶の少ない判りやすくサクサクな操作感かなぁ、という気がしてます。自社コンパクトデジカメからの操作性の継承という点では上手くやっていると思います(それが中上級者には欠点とも写るでしょうが)。

そういったことも含めて、EOS M の操作性について、ちょっと触れてみたいと思います。


EOSM01


EOS M の背面を見ると、完全にコンパクトデジカメそのもの。ここまで徹底するか、という感じ。角の丸いデザインもそうですが、背面だけ見ると PowerShot や IXY と見分けがつかないどころか、むしろ PowerShot の方がボタン数が多いくらいです。

他のミラーレス機なら(背面ホイールダイアル以外に)一眼レフと同じように、一つくらい設定変更ダイアルがボディ右上にあるものですが、それすらない。徹底したコンパクトデジカメの操作体系を踏襲しています。

きっとダイアルの一つくらい付けることはできたでしょうし、検討もしたのでしょうが、あえて PowerShot / IXY ライクにしたのだと思われますし、結果的にそれはそれでダメ出しするようなものでもないな、と感じています。

同じようなことは、EOS M の背面ボタンが一般的な背面ホイール採用のデジタルカメラより1つ少ないことにも言えるかもしれません。

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多くのカメラでは背面ホイールの周囲に4つボタンが有るのが普通ですが、EOS M では右下にボタンがありません。1つユーザーカスタムなボタンがあれば…とも思いますし、従来ならそれを不満の一つに挙げるのですが、EOS M だと

「普通ならあるべきボタンがもう1個有ったら便利かもしれないけど、ないからといって欠点や不満には感じないなぁ」

という感じです。後述するように全体的な操作体系がよくまとまっていて、あまりユーザーカスタムなボタンが必要とは感じないですね。

(もっとも、CyberShot RX100 のように右下にヘルプボタンみたいなのが固定割り当てであったら、使いもしないボタンが1つ勿体ない!とは書いたと思います。ソニーからのユーザーアンケートにも書きましたが、アップデートで改善されることなく次機種で改善しました、という一番腹立つパターンですかねぇ…)

ただ、ボタンはともかく、個人的には絞りやシャッター速度を変更するのは一眼レフのように右肩の独立したダイアルの方が良いと思ってますし、自分が買うならやっぱりそういうカメラでありたい、と思います。右上の独立ダイアルで絞り/シャッター速度のコントロール、背面ホイールは露出補正が良いですね。



欠点というならば、モードダイアルが以下のように「インテリジェントオート」「静止画撮影」「動画撮影」の3つに極めて簡素化されているのは、前年発売の Nikon 1 の悪影響というか、悪いところを真似しなくてもいいのに…と思います。

EOSM06


ニコンとキヤノンというメーカーが揃ってミラーレス初号機でこんなことをしたのは苦笑せざるを得ませんが、それよりも欠点として指摘したいのは

電源スイッチが使いづらい


ということ。EOS M の操作性でハードウェア的な部分での一番の欠点では電源スイッチだと思っています。押しにくい。

どうせモードダイアルをこんな3つに簡素化してしまうなら、電源オフも含めてしまえばよかったのに、と思います。そうすれば電源オンオフもレバーでオンオフと使いやすくなったし、ボタンも操作部分も更に1つ減ったのにねぇ、と思います。

ボタンやダイアルを最小限した EOS M のシンプルさは、それはそれで悪くないと思いますが、この点だけは画竜点睛を欠いたように感じます。

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モードダイアルの簡素化については、EOS M ではタッチパネル、それもスマートフォンと同じ静電容量方式でタッチ感度も良いものなので、モードもタッチパネルですぐに切り替えできるから良いや、ということだったのかもしれません。実際

同じモードダイアル等のない Nikon 1 V1 とは比較にならない使い勝手の良さ


です。

EOS M には撮影画面から各種設定をタッチで行えるだけでなく、ボタン操作によるクイック設定メニューもあり、V1 とは比較しては申し訳ないくらいの差はあります。

EOS M を使っていて感じるのはタッチパネル操作にストレスがなく、満点とは言わないまでも長くタッチパネル操作をやってきたパナソニックと変わらぬレベルを最初からやってるのは素直に褒めるべき点かと思います。

(パナソニックも以前は抵抗膜方式のタッチパネルで使っていてストレスが溜まりましたが、今は静電容量方式に切り替わっていますね)

ただ、個人的な希望を言えば、モードダイアルの簡素化は良いけれど、せめてクリエイティブオートを含めたシーンモード系と P/S/A/M の応用撮影モードは分けて欲しかったな、と思います。



EOS M はタッチパネルなので色々な操作もタッチパネルで行え、フォーカスエリアの指定のようにタッチパネルで行うのが必須の設定もありますが、

タッチパネルだけに囚われず、ボタン&ホイールによる操作も十分快適


なのも心地よく使える点です。

特に、撮影画面でホイールの中央ボタンを押して表示されるクイック設定メニューがかなり使いやすく、ここで殆どの撮影時設定が素早く行えます。

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クイック設定メニューはカスタマイズはできませんが、撮影時に主要な8項目が両側に並んでいてボタンとダイアルでサクサクと設定できます。PowerShot S100 のクイック設定のようにメニュー項目がスクロールされることもなく、CyberShot RX1 のサブメニューに近い仕様です。

数も多すぎず少なすぎず、撮影時の主要な設定が1画面で完結できる


というのは使い勝手が良いですし、クイック設定メニューでは大切なことです。

また、設定項目の選択(EOS M の場合は上下)と設定の変更(左右またはホイール)の操作方法が直交していて、なおかつ同じ指ですぐ至近で行えるということも重要です。このことが全くわかってないメーカーもありますからね。

その代表例としては富士フィルムで、X-E1 / X-Pro のようにクイック設定メニューに多数の設定項目が並んでいて、

  • 設定項目の選択に上下左右ボタンを使わなきゃならない

  • 設定内容の変更は上下左右ボタンから離れたダイアルでやらなきゃならない

  • 撮影時によく使う設定変更がクイック設定メニューだけで完結しない
    (AE


という間抜けな仕様で、使うたびになんだかな〜な気分です。

クイック設定なんだから、判りやすく素早く操作しやすく


であるべきなことを EOS M では再認識させてくれます。



また、クイック設定メニューだけではどうしても設定したい項目が足りない場合があります。また EOS M ではクイック設定メニューはカスタマイズ不可です。これを補うのが「マイメニュー」。

EOS 一眼レフでも PowerShot でもお馴染みの機能ですが、

クイック設定メニューとマイメニューで、EOS M はタッチ無しでもかなり快適に扱える


ようになっています。

EOSM14


個人的なマイメニューは上記のようにしてあります。EOS M を借りた初日に決めて、ずっとそのままですが、タッチシャッターは私の場合ほとんど使わないし、撮影画面右下でも切り替えタッチボタンがあるので無くてもいいですね。

また、ISO 変更はタッチパネルでもできますし、タッチで変更することも多いのですが、ボタンで操作したい時のためにマイメニューに入れてあります(クイック設定メニューにないので)。

露出補正を入れてあるのは、オートブラケットの設定が露出補正ボタンからできないためで、オートブラケットを多用する私はマイメニューのトップに入れてあります。PowerShot でも撮影時の露出補正画面からオートブラケットが設定できるので、これは EOS M でも改善して欲しいですね。

EOSM04


もちろん、上記のような背面液晶全体に主要撮影設定を表示する画面設定もあり、ここからもボタンやタッチで設定に入ることができます。

が、ファインダーがないカメラですからあまり使っていませんし、こんな画面がなくても十分快適に利用可能であります。とはいえ、EVF 付き EOS M が出たら、この画面は便利に使うかもしれません。

いずれにしても、タッチパネル対応だけどタッチだけに頼らない、タッチパネルだからとボタン操作による設定変更を疎かにしないところはキヤノンらしいな、と思いますし(コンパクトに最後まで光学ファインダーを残したことに通じる)、高く評価したいですし、他メーカーも見習って欲しいと思います。

ちなみに、ボタン操作の点だけを強調しましたが、クイック設定メニューでもマイメニューを含めて通常メニューでも、ボタンだけでなくタッチ操作も可能です。タッチ操作とボタン操作は(一部を除き)完全に両立して、どちらでも使いやすいのは本当に良い UI になっています。



あと細かいところですが、結構重要に思っている点を幾つか。

まず背面液晶の表示ですが、EOS M では撮影時の設定内容表示で

EOSM01

EOSM02


と、設定内容が多く表示される場合と少なめの場合の2種類の画面設定があります(加えて設定関連は何も表示されず、完全に被写体だけになる画面もある)。

撮影時に設定項目をどれだけ表示するかは好みがあり、表示項目をカスタマイズできるカメラも少なくありませんが、カスタマイズできる場合も含めて、多めと少なめの2種類の設定が用意して欲しいな、と思っています。

ホワイトバランスやピクチャースタイルなどを気にしたり変更しながら撮る場合と、露出関連だけ見ればいい場合と、条件によって分かれると思うので、設定内容の画面表示は(何も表示なしに加えて)2種類あると良いのが私の好みで、そういう点で EOS M は良いな、と思っています。

ただ、ヒストグラム表示は独立して表示非表示が設定できるのですが、

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この表示方法はちょっと大きく邪魔すぎるので、もうちょっと考えて欲しいかなぁ…という気がします。



また、他のミラーレス機を散々あれこれ使ってきて、設定できないことに疑問を感じていた点も EOS M ではキチンと設定できることに好感を持つとともに、これが当たり前だよなあ…と感じています。

例えば、シャッター切って撮影した後の画像確認(ポストビュー)のオンオフや表示時間。

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普通あるのが当たり前だと思っていたら、ポストビューの切れないミラーレス機が意外と多い。レリーズ切って、またすぐに被写体を追いかけて撮影できないじゃないの…

それでなくても EVF は連続撮影に不利なのに、撮影後の画像確認をしない設定にできないカメラはアホかと思ってしまいます。某フィルム時代みたいなレトロデザインっぽいカメラですらその点が…フィルム時代はポストビューなんてなかったのにね!


あと、EOS M では「コンティニュアスAF」となっている設定ですが、これも個人的にはきちんと ON/OFF できるミラーレス機が少ないので評価したいです。

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これは AF-C のことではなく(AF-C はキヤノンでは AI Servo で別に設定可能)、レリーズを半押ししていない時でも勝手にピントを合わせる機能です。NEX など他のミラーレスでもよくある機能ですが、これが邪魔になることもあるわけですし、バッテリーも食います。

NEX では初代 5D の頃からずっとソニーにこの機能をオフにできるようにしてくれ!と言ってるのですが、なしのつぶて。EOS M では初号機からしっかり ON/OFF できるようになっています。状況によって使い分けることができて素晴らしい。

ポストビューと勝手な AF 動作は個人的にミラーレス機で不満に思うことの一つでしたから、これがきちんとユーザーが制御できることは、私の中では非常に評価が高くなっています。

EOSM17
(EOS ユーザーおなじみの C.Fn もありますが、取り立てて書く内容はなし)

EOSM18
(しっかりボディを見直すまで気づきませんでしたが、内蔵マイクはステレオ)

EOSM19
(グリップは微妙。ボディが厚めな分だけ、このグリップでは安定して握れない)


というわけで、ちょっと EOS M 称賛モードになってしまいましたが、操作性という点では満足できうるもので、他に色々な欠点があったり、特徴のない平々凡々機であっても、そこだけは強調しておきたいです。

操作感もサクサクで、もたつくことがないし、タッチパネルの感度も良好。iPhone と同じレベルとは言えないものの、2.3 時代の Android 機レベルで、デジタルカメラとしては十分。そして、何度も書きますが、タッチパネル機だけどボタン操作も快適なこと。

それが最小限のボタンとホイールでできていることを思うと、

ハードウェアボタンが多いだけで設定変更が決して快適じゃない X-E1 と
ボタンは最小限だけどずっと設定変更が快適にできる EOS M


の違いに色々と考えさせられるものがあります。

NEX-7 のトライナビダイアルがアイデア倒れな部分でメーカーが使いこなし切れていないことも含めて、

操作性は結局ソフト次第だなぁ


と思います。

EOS M の場合はコンパクトデジカメの操作体系をそっくり踏襲して、革新性やチャレンジという部分は皆無ですが、それが操作性では良い方向に転がっていると思います。

コンパクトデジカメは小さなボディ、少ないボタンで如何に快適な操作ができるかがポイントになっていますが、ミラーレス機も一眼レフと違って小型重視のボディなら、一眼レフではなくコンパクトデジカメに習うのは意外と良いと EOS M を使って実感しました。

EOS M も次世代機からは色々と変わっていくかもしれませんが、タッチパネルとボタン操作の高い両立も含めて EOS M の操作性は一つの指針になるように思いますし、他メーカーも見習って欲しい部分があると感じます。