iPad の発表から1週間。賛否両論渦巻いて、というよりも、どちらかと言えば否定的な意見の方が多い iPad。でも、そんな反応は私もよく理解できる。なにせ、iPad 発表時のネット中継を iPhone で見ながら twitter につぶやいたひと言が

何か直球すぎて(あまりにデカいiPhoneだけすぎて)、今のところはどうってことないな〜 >iPad


だったのだから。

MacOS X ベースのタブレット機を期待していた人は当然落胆は大きいだろうし、そうでなくてもスペックや発表会の内容に拍子抜けは否めない部分はあった。ちなみに、私も以前は MacOS X タブレットを期待した時期はあったが、今はない。

過去にタッチパネル Windows 機を使った経験も含めて、パソコン用 OS によるタブレット機の死屍累々な状況を MacOS X だからといって変えられるとは思えないし、タブレットで使う用途を考えれば MacOS X はオーバースペックすぎると感じていたからで、そういう意味で iPhone OS の選択は悪くない(将来的にユーザーアプリのバックグラウンド実行が許可されることが前提だが)。

とはいえ、スペックを見れば本当にデカい iPhone というか、

デカい iPod touch そのまんま


でしかない。この印象は誰しも感じるようで、

Microsoftなどライバル各社がiPadにコメント (via 「iPadは閉鎖的」―Microsoft幹部が批判)
元麻布春男のWatchTower:iPadは“でかいiPod touch”なのか、あるいは……

の記事に代表されるように、色々な人が同じような感想を述べているし、それについて否定できる要素はないように思う。

なにせ今回の発表会では iPad ならではの付加価値は、具体的にはほとんど触れられることがなかった。iPad の目玉の一つになるであろうと大きく期待されていた電子書籍についても、iBooks というものを発表した程度で詳細はほとんど未定のまま。

iBooks が北米以外は未定でスタートするのは予測された事態であるけれど、肝心要の北米での iBooks も具体的なことは一切語られなかったのでは、iPad に期待されていた大きな部分が削がれてしまったと言える。そんな発表では、自然「iPad =デカい iPod touch」と評されるのもやむを得ないだろう。

Apple iPad 9.7inch タブレット (仮称)
Apple iPad 9.7inch タブレット (仮称)

Amazon でも今週早速 iPad のページができていた。
ただし、まだ注文を受け付けてはいない…


機能的には、ほぼ完全に「デカい iPod touch」と言って過言ではない。iPhone / iPod touch と同じく液晶の下にボタンが一つ。側面や上面・底面のボタン・コネクタ類もほぼ同じ。ご丁寧にスピーカーまで(おそらく)モノラルとくれば、何もそこまで同じにしなくても…という感じである。

筐体サイズが大きくなって、液晶の周囲の額縁部分も大きく取ったのだから、スピーカーくらい余裕で左右にステレオとして埋め込めたはず。底面にステレオスピーカーがあったからと言って、ほとんどステレオ効果はないかも知れないが、それくらいしても良いじゃないかと思う。

USB の一つくらい…と思うが、そこは“パソコンではない”というポリシーがあるデバイスだから目をつぶるとしても、720p とはいえ HD 映像をデモしてアピールしたのだから HDMI 端子くらいあっても良かったはず。ビデオ出力は DVI や Display Port でもない古くさいアナログ出力なんて 2010年発表のデバイスとは思えない時代錯誤さである。

もちろん、「デカい iPod touch」であるからパソコンの母艦が必要になる。この点については後述したいが、iPhone / iPod touch のように明らかにパソコンのサブデバイスとして位置づけられてもおかしくないものならともかく、このサイズのデバイスともなれば“パソコンなしでの運用”もできるようになって欲しかった。

Apple iPad 9.7inch タブレット (仮称)


とまぁ、とにかく一から十まで「デカい iPod touch」である。違いはまさに液晶サイズと、いくつか細かな操作方法などである(この辺は SDK がまだβ版ゆえのNDA があるので語って良い部分ではないだろうから割愛)。

じゃあ、何故ここまで iPod touch のデカい版に過ぎないモノを出してきたか?ということを考えると、もちろん iPhone アプリ資産を含めた iTunes 基盤とする“iTunes システム”という Apple 最大の強みを生かしたい、最大に利用したいということだろう。

しかし、機能面でかなり最小限に絞っているところをみると、そういったことよりも

$499〜 という値段ありきのハードウェア


だったように思える。

つまり、まず 10インチクラスの見栄えのするマトモなタッチパネル液晶を搭載する。それがあって、値段をなるべく下げる。その値段で(十分な利益を確保した)機能をどこまで搭載するかを考慮した際に、中途半端に+αの機能を搭載するより「今回はデカい iPod touch で良いんじゃね?」と割り切ったんじゃないかと思う。

だから、おそらく次世代モデル以降には(USB はなくても)HD対応のデジタルビデオ出力はあるだろうし、スピーカーもステレオになるかもしれない。ビデオカメラも SDHC スロットも搭載されるかもしれない。それら(のいずれか)を入れても十分コストが目標値に達するならば、だが(当面は年々値下げもしなきゃならないだろうから、どこまで実現するかは微妙だが)。

Apple iPad 9.7inch タブレット (仮称)
Apple iPad 9.7inch タブレット 16GB Wi-Fi

国内価格の発表はないが、$499 ゆえに5万円切る価格は確実のはず…


Apple のポリシーとして、モデル間の差異はメモリ容量のみで、同世代のデバイスのモデル間で機能に差を付けることはしないのだから、最下位モデルのコスト目標に達しなかった時点で、どんどん iPod touch に対する追加機能は削られて、単なる「デカい iPod touch」になってしまったのでは?と思えるし、そう考えると納得できる。

だから、iPad に多くの期待を寄せていた人、スペックに重きを置くマニアな人にとっては、この iPad のスペックをみてガッカリするのも当然だろう。最初に書いたように、私もその口だった。しかし少し考えると

この値段ありきと言うのは正しかったでは?


と思う。Wi-Fi のみの 16GB という最下位モデルで $499。おそらく日本では 49,800円くらいで売られるのだろう。いずれにしても5万円弱。とりあえず買ってみるか…と思える金額ではないだろうか?

これが色々もっと機能がついて(当初予測されていた)10万円弱だったとしたら、買うのに少し考えるだろう。ある種の人が期待していた MacOS X ベースのタブレットなら、CPU もメモリもストレージも遥かに必要だから十万円台後半になったかもしれない。

10万、20万になっても買う人は、それなりにいるだろう。なにせ信者がついている Apple 製品なのだから。けれど、もはや Apple は信者を相手にして商売ができるほど小さくはない。なにより

高い値段をつけたり、パソコンOS を持ち込んでは Apple と言えど
誰も成功したことがないタブレット製品の死屍累々の山にまた加わるだけ


と考えたのだろう。今までのやり方では駄目だ、と。それでそこそこ売れても成功ではない、と。

となれば、今までのパソコン OS ベースのタブレット製品とは違った、用途をタブレットで使うものに絞って考えた物として、とにかく値段最優先で必要最小限の機能を入れようと考えたとしてもおかしくはあるまい。

なにせ iPad というデバイスは今までにない隙間を狙ったデバイス。どれほど使われるかは誰にも判らない。iPhone のように最初の信者・新しい物好き需要を起爆剤に2〜3年して需要が爆発するかもしれないが、Apple 信者と新しい物好きが買うだけに終わるかもしれない。Apple にも Apple TV という極めて微妙な存在がある。

ただ、Apple はそこに大きな市場があると信じて出してきているわけで、そこで評価を得るには、まず使ってもらわねばならない。

どれほど使うか判らないものに10万は出しにくくても
5万ならひとまず買って試してみようと思える金額


なのではないかと思うのだ。もちろん、新しい物好きが買ってしまう金額、という意味だけど、彼らにまず使ってもらって、タブレットの評価を得ないと、その先はない。

「5万で試すとか言ってるお前は金銭感覚が狂ってる」という批判は甘んじて受けるけれど(笑)、まぁガジェット好き、新しい物好きは概ねそんなもんだから仕方ない。病気だからね。

ともあれ、iPad に対する最初に感じたガッカリ感が通り過ぎ、冷静に評価してみると、そういう考えが支配的になってきた。Apple も色々なことを考慮した上で

とにかく使ってもらわねば始まらないから、まず値段ありき
機能はコアな部分だけになっても値段ありき


ということに落ち着いたのではないかな?と。

Apple iPad 9.7inch タブレット (仮称)


無論、コアな機能というのは「マルチタッチ可能な見やすい大画面液晶デバイス」ということであり、他は須く付加機能、余分な機能であるから、価格のためにそのコアな部分だけに削り落としたと考えれば、色々と納得がいく。

そしてまた、そのコアな機能である「マルチタッチ可能な見やすい大画面液晶デバイス」、つまり「デカい iPod touch」ということであるが、単に iPod touch がデカくなっただけのことを完全否定する向きもあるけれど、私は

画面が大きくなっただけの iPod touch には十分意味/用途がある


と思っている。そのことは本記事が無駄に長くなったので、また次の記事で触れたいと思う。

ただ、こうやって擁護論とも言えることを書き連ねているけれど、そういう思いと同時に

デカい iPod touch に意味や用途はあるけれど
それでもニッチではあるから、どこまで売れるかなぁ…


とも思ってる。

パソコンや iPhone (スマートフォン)は、今や「実用品」である。
iPad (タブレット)は「実用品」ではなく「娯楽用品」でしかない。

それを思えば、iPhone みたいな売れ方をすることはないように思うし、それが正しい売れ方のように思っている。ただ、そこに需要がないか?と言えば、そんなことはないし、むしろパソコン用 OS ベースじゃない正しさが iPad にはあるように思う。

その辺については記事を改めて書きたいと思う。