DP1 は JPEG ではなく RAW で撮るカメラ、RAW で撮ってこそのカメラであることは衆目の一致するところだが、DP1 の RAW を現像できるソフトは今のところシグマ純正の SIGMA Photo Pro(以下 SPP)しかない。その SPP ではあるが、機能的には最低限の現像ソフトとして役割を果たせるものなのだけど、少なくとも SPP 3.1 for Mac については非常に困ったちゃんなソフトである。

私の場合、今までニコンにしろ、キヤノンにしろ、RAW 現像は特別な理由がない限り純正ソフトで現像してきた。ニコンの場合は別売りの Nikon Capture(以下 NC。現行製品は Capture NX)、キヤノンは製品添付の Digital Photo Professional(以下 DPP)を使ってきた。

どちらもフィニッシュまで仕上げるソフトとして全てを網羅してはいなかったが、少なくとも純正ソフトとしての安心感はあったし(ピクチャースタイル/ピクチャーコントロールが使える)、特に DPP は RAW 画像のセレクトソフトとしても優秀で、Core2Duo 以上のマシンならば、RAW + JPEG ではなく RAW のみでも画像セレクトが苦にならないくらいのレスポンスと操作性がある(どちらにしても今の DP1 は RAW + JPEG 保存できないしね)。

SPP 一覧画面
SIGMA Photo Pro 3.1 for Mac ファイル一覧画面


SPP も純正現像ソフトとして出力される画質は(純正ならではの)安心感がある。特に他のカメラと違って Foveon という特徴的な素子を搭載する DP1(および SD シリーズ)だけに、その特徴をきちんと把握している純正ソフトの安心感は、他の RAW を扱う時より強い(それにどこまで意味があるかは別にして)。

基本的な使い勝手も上記画面のとおり、左にフォルダ一覧があって右側がフォルダ内のサムネイル画像が出る一覧画面があり、サムネイルをダブルクリックしたら編集画面が出る一般的なもの。DPP みたいなセレクト編集画面はないが、編集画面で前後の画像に移動できるので、それだけを見れば大きな不満はない。

SPP 編集画面
SIGMA Photo Pro 3.1 for Mac 編集画面


現像時のパラメーターも基本的なパラメーターはあるし、ダイナミックレンジ・コントロールの“X3 Fill Light”パラメーターは非常に便利だ(掛けすぎるとダメだが)。トーンカーブやノイズリダクションはないけれど、最低限我慢はできる。

必要があれば 16bit TIFF 出力して Photoshop に読みませて後処理をすれば良いのは DPP と変わらない(といっても、DPP の場合はそこまで必要なことは少ないけど)。

しかし、この SPP 3.1 for Mac は、ソフトの安定性の点で非常に問題がある。とにかく

メモリーリークしまくり


である。数枚程度の閲覧・編集なら特に気づくこともないのだが、20枚30枚…50枚と画像を開いていくと(編集画面を開いて表示用の現像処理を繰り返すと)、メモリーエラーのダイアログが出て作業続行が不可能になる。SPP を使いながら別途メモリー状況をチェックしていると、画像を開くたびに SPP がメモリーを食いつぶして開放しきってないことが判る。

プログラムを組んでいるものの端くれとして、メモリーリークは根の深い問題であることは理解しているが、こんな明らかすぎるものはちょっと酷すぎる。ソフトの動作が糞トロいのは百歩譲って我慢するとしても、これは困る。

【追記】このメモリーリーク・バグは Ver.3.2 でも全く直っていない。後述する他のバグ、不可解な仕様もほとんど何も変わっていないのだが…

もちろん、他にも単純なバグが散見されるし、使い勝手の面でも難は多い。



  • フォルダ内の最後のファイルを編集画面で開いた状態でファイル削除を行うと、削除の確認ダイアログが出っぱなしになって、その後何もできなくなる(Command + Q によるソフトの終了のみ可能)。

  • ソフト起動時に(前回終了時に開いていたフォルダが存在しないなど)フォルダが選択されていない状態から、左側フォルダ一覧で RAW ファイルのあるフォルダを選択しても、右側リスト画面にファイル一覧が表示されない。一度別のフォルダを選択してから戻ると正常にファイル一覧が表示されるようになる。
    (追記:このバグは Ver.3.2 では一部条件下では直っていた)

  • キーボードおよびメニューからのファイルのコピー&ペーストができない。ファイルを選択しての右クリックによるプルダウンメニューにはカット・コピー・ペーストの項目が出ているが、グレーアウトのまま。マウスドラッグによる移動、コピー(オプションキー併用)はできるが、決して使いやすいわけではないので、メニューによる処理やキーボードショートカットでの処理をさせるべきだろう。

  • マウスによるファイルのフォルダ間コピーをする時、ファイルコピー状態のダイアログが出ないので、本当にコピーされているかどうか、コピーが終了されているかどうかも判らない。おまけに、ファイル移動・コピー処理が終わった後、一覧画面のリフレッシュが正常に行われないし、時にはイベント処理がおかしくなってソフトを一度終了しないと、まともに動作できないことが多発。

  • RAW ファイルの編集画面を開いてバックグラウンドで編集用の現像処理を行われている途中に、現像パラメーターのホワイトバランスを変更すると ツールバー部分の EXIF 表示欄の EXIF データー表示が消えてしまう。


明らかなバグやおかしな挙動でもこれだけある。他にも仕様としておかしい部分は多々ある。

  • ファイル一覧画面や編集画面でファイルを削除するたびに一覧画面全体をリフレッシュして、一覧画面のスクロール位置が一番上に戻ってしまうので、フォルダ内に数十以上のファイルがある状態でファイルをセレクト(削除)していく時、ファイル削除するたびに元のスクロール位置まで自分で再度スクロールする必要があって面倒すぎる(スクロール位置を覚えてリフレッシュ後に戻すくらいしてくれ)。

  • ファイル一覧画面のサムネイル作成が遅い割には、大してキャッシュしてない(少なくともソフトを起動し直すと作り直す)ので、フォルダをあちこち移動しているとサムネイル再作成でたびたび待ち時間が発生してストレスが溜まる。

  • 調整した現像パラメーターを RAW (X3F) ファイルに保存するには、JPEG または TIFF 出力を行うしかない(出力時に「X3F ファイルに設定を保存」にチェックする)。JPEG / TIFF 出力せずに X3F ファイルにパラメーターを保存するだけの方法がない(ファイル保存が JPEG / TIFF 出力になっている)。
    私自身の確認ミスで、左側メニューのX3Fボタンで現像パラメーターを RAW ファイルに保存できます(コメントで指摘していただいたみかんさん、ありがとうございます)。メニューの方も、ファイルメニューではなく編集メニューの「X3F設定…」というのが該当するものでした。
    でも、これは明らかにおかしいと言うか、Mac はもちろん、他の OS を考えてもこんな形でユーザーインターフェースを設計することが信じられない。

  • でも何故か、ホワイトバランスだけは RAW ファイルに保存される。

  • そのホワイトバランス変更では、色温度指定ができない(プリセットからの選択のみ)。

  • 調整設定のベースとして、X3F(ファイルに保存されているパラメーター)、オート、カスタム(現在変更中のパラメーター)の3種類が選択できるのだが、1つのファイルで変更したパラメーターが次のファイルを開いた時にも自動的に適用されるのは、正直微妙。ファイルを開いた時は常にファイルに保存されているパラメーターが適用されて、必要に応じてパラメーターだけコピー適用できる方がいいし、できれば設定で選べるようにすべき(というか、環境設定の項目がグレーアウトされていて使えない)。

  • 一覧画面・編集画面のファイル名や EXIF 情報が表示される行で、主要 EXIF 情報のうち何故かフォーカスモードだけ表示されない(画像の情報を出せば表示される)。

  • カラープロファイルを選択できない。

  • マークは1種類だけでなく、DPP のように3種類あると便利なのだが…


まぁ色々と不満があるが、とにかくメモリーリークも含めたバグは解消して欲しいし、動作が遅すぎるのは何とかして欲しいものだ。Core2Duo 2.4GHz で使っていても糞遅いのは辛すぎる。Nicon Capture や Capture NX でアクティブライトニングを使っているような遅さだ。DPP を見れば無茶なリクエストとは言えまい。

DPP が現像ソフトとしては優秀すぎる速度なのかもしれないが、DPP のセレクト編集画面でサクサクと RAW ファイルをセレクトできるのに比べると、その速度と使い勝手の悪さは比較にならないほど作業効率に差がある。同じ枚数でも DPP の倍以上時間を食ってるのは間違いない。

DP1 の画像は他と違ってアンシャープマスクをかけたり、縮小して誤摩化すことはないので、現像処理に考えることは少ないのだが…ホント DP1 本体と一緒で、現像ソフトまでレスポンスは悪いわ、使い勝手は悪いわ、動作も難ありで、ハードもソフトも似た者同士というべきか…ねぇ(-_-#)

Spiraea thunbergii (Yukiyanagi)